『ホリー・クロースの冒険』ブリトニー・ライアン著、永瀬比奈訳

『ホリー・クロースの冒険』ブリトニー・ライアン著、永瀬比奈訳

『ホリー・クロースの冒険』ブリトニー・ライアン著、永瀬比奈訳

 ■人生に大切な慈愛の心、勇気

 世界中の子供たちの願いを聞き届け、イブにプレゼントをするサンタ・クロース。そんなサンタに1人の少年が「クリスマスになにがほしいですか、サンタさん」という思いやり深い手紙を送ったところから、この物語は始まる。

 サンタは子供を望み、娘を授かる。ホリー・クロースと名付けられたその子は、だが生まれたばかりのときに魔法使いに呪(のろ)いをかけられてしまう。しかしホリーはやさしさと勇気を持つ少女に育ち、やがて人間の世界へと旅立つ。

 クリスマスのニューヨークに降り立った17歳のホリーが、街の人々とふれあい、おもちゃ屋で働き、恋に落ち、魔法使いと戦うといった物語後半がいい。きびきびと行動する主人公が輝いている。オオカミ、キツネ、フクロウ、ペンギンといった、ホリーの友である動物たちや、街の公園に住む孤児ジェレミー、おもちゃ屋の雇われ店長クライナーなどの脇役たちも、生き生きとしていて魅力的だ。

 本書は映画「メリー・ポピンズ」「サウンド・オブ・ミュージック」でおなじみの女優で児童文学者でもあるジュリー・アンドリュースがプロデュースした作品で、著者のブリトニー・ライアンもまた、数々のミュージカルに出演している舞台女優だ。作家デビューを果たした本作は、背景や衣服や小道具の描写が緻密(ちみつ)で色彩豊か、視覚的要素が強いので、映画になっても楽しいと思う。

 他者への慈愛の心。勇気ある行動。夢を抱き、あきらめないこと。人生で大切なそれらのことが、わかりやすく、そして美しく描かれたファンタジー。愛と夢に彩られた世界に酔いながら、未来と永遠を信じたくなる1冊だ。(早川書房・1890円)

 作家 牧野節子



【プロフィル】ブリトニー・ライアン

 Brittney Ryan アメリカでテレビに登場する一方、作曲家としても活躍。本書が作家としてのデビュー作。

(2006/12/04 09:59)



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